2023.01.20 Friday
「良質な保育」を保障するためには…
2023年がスタートしました。
本年も日本の未来を支える宝である子ども達にとって、健康で幸多い一年になりますことを、心から願っております。
さて、2022年の年間出生数は国の統計開始以降、初めて80万人を下回る見通しです。
人口減少は経済活動が減少する等、国家の未来に影響を及ぼします。
政府も人口減少に対する課題意識があるため、首相の年頭の記者会見において「異次元の少子化対策に挑戦する」との発言もありました。
では「異次元の少子化対策」とは具体的にどのようなものなのでしょう…
おそらく少子化対策の1つとして取り上げられるであろう保育制度について、私が疑問を抱いている事を下記に述べたいと思います。
<保育制度の問題点>
昨年は園バスの置き去り事故、保育士による虐待等、悪い意味で保育現場がクローズアップされる場面が度重なり、子を持つ親として、保育の仕事に従事する者として憤りを感じると共に、なぜあのような惨劇が起きてしまったのか…といった疑問を抱かずにはいられませんでした。
あのような悲しい事故や事件が起きてしまった要因として、園の安全管理体制、保育者としての専門性が問われるのは当然ですが、私はそれ以前に我が国の保育制度に問題があると考えます。
現在の保育現場の最大の課題は「保育者不足」です。全国各地の保育施設では必要な保育者の人数を満たすために求人を出し、保育者の採用に尽力していますが、「求人数に対して応募数が同様」「応募無し」等が数多く見受けられる現状です。
この問題の背景として政府が推進してきた「行き過ぎた待機児童対策」が挙げられます。
2016年に保育園への入所選考で落ちた母親がブログに投稿した「保育園落ちた日本死ね!」を皮切りに、政府はあらゆる手段を用いながら保育の受け皿の定員を増やしてきました。
その結果として、現在はほとんどの自治体で「待機児童問題」が解消されつつありますが、保育の受け皿の定員を増やしてきた代償として「保育者不足」の問題が浮上し、ただでさえ保育者を目指す学生が減少している状況に追い打ちをかける要因となっています。
日本の保育制度における保育士の配置基準(保育士1人が保育できる人数)は「0歳児⇒3(子ども):1(保育士)」「1・2歳児⇒6:1」「3歳児⇒20:1」「4歳児以上⇒30:1」と定められています。
しかしながら、このような配置基準では当然ですが良質な保育を営むことは困難です。(例えば…6人の1歳児を1人の保育者だけで遊び、食事、排泄、着替え等々の保育を行うことは不可能です。)
仮にこの配置基準で無理やり保育を行うとすれば、安全面を重要視するあまり監視員としての役目を果たすことが中心となり、結果として子どもに指示や制限の言葉を多用し、言うことを聞かせる保育、言うことを聞かないと強い働きかけによって圧力かけるといった「不適切保育」をせざるを得なくなり、一緒に遊びを楽しみながら子どもの内面を読み取り、その子らしさを大切にした子ども達一人ひとりの心持ちに寄り添う温かな保育を営むことは残念ながら出来ないでしょう。
当然ですが私達はそのような「不適切保育」を望んでいるのではなく、国が定めた無謀な配置基準の中でも葛藤しながらより良い保育を目指して奮闘してはいるものの、限界を感じているのも正直なところです。
更に「保育者不足」により、ずさんな配置基準すらも満たすことが出来ない保育が日本の各地で行われている現状を考えると、いよいよ改革をしなければならないと切に思います。
ちなみに配置基準は50年以上前から変わっていません。
社会が目まぐるしいスピードで変化し、教育の在り方も見直されているにもかかわらず、未だに昭和(しかも戦後)の基準です。
これでは子ども達が安心して健やかに幸せな園生活を送ることを保障することが出来ず、結果として今後も悲しい事故や事件が後を絶たないでしょう。(そのような現状を踏まえ、当園では国が定めている配置基準以上の保育者を配置するために、教育充実費等の「上乗せ徴収」を独自に設定し、一人ひとりの子どもにより丁寧に関わることが可能となる質の高い保育実践を目指しています。)
本来であれば政治の責任において見直すべき点が多い日本の保育制度ですが、制度の欠陥に目を背け続け、事故や事件が起きるまで改革を実行せず、政治主導で推進してきた「待機児童対策」が結果として保育の質を低下させてしまう結末となってしまい、また社会全体としてもクローズアップされないまま今日に至ってしまいました。
そのような悲劇を繰り返さないためにも今こそ保育制度を見直し、保育の質向上に繋がるような大胆な改革を行って欲しいと切に願います。
また、社会全体が保育制度の現状を知り、子ども達が幸せな人生を過ごすために必要な「良質な保育」を問い直すことが出来るよう、大人達の責任において行動に移していく1年にしたいと思います。